初夏を知る話

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初夏、というらしい。 海からの風にレースの日傘が少し傾く。 この国には四季があり、その移ろいにまで名前が付けられている。 自然を感じる能力に長けた先人によって言葉が残っている。形骸化していたとしても。私のように、日本に暮らした経験のない者でも、海辺の湿度や風を初夏というワードに落としこむことができる。有難い。 プランのオプションで着物を選択した。私の髪色に合っていないかもしれない。それでもいい。 違和感も一つ一つがきらめいた旅の思い出となる。 自分のルーツの国を訪ねるという無謀とも言える思いつきに両親は反対した。 『地震がトラウマになった人もいるんだ』 『精神のダメージは計り知れない』 リスクは承知。反対されることも想定内。私は生まれてから両親の元を離れたことがなかったのだから。 日本を選んだのには特に理由はない。強いて言うなら、今の自分とかけ離れているから?興味を引かれた。私のルーツである国は、他にもあるのだけれど。 ここにいれば平和で安全なのはわかっている。日々のうちに積もる慢心のようなものを落としたい。体についた贅肉を落とすには今までと生活を変えるでしょう?それと同じ。リフレッシュしたら、また同じようにパパとママのところに戻るわ そう繰り返して、了解を得た。
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