ちょっとしたバグ

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胃の不快感が辛い。 翌朝、抑制剤を飲んだ慶は、若干の吐き気に襲われながらものそのそ歩いて登校した。 自分の席に座って深く溜息を吐く。 今日も朝から賑やかな教室で、慶はぼんやり外を眺めてお腹を撫でた。 昼休みにはこの感覚が無くなっていたらいいのだけど。そう思いながら頭の片隅で祐希は大丈夫かなと考える。 今朝は甘い匂いがしない。 薬を飲んだからかもしれないが、そもそも祐希は登校してきていないのかもしれない。 あとでこっそり覗きに行こう。 「──おい」 祐希のことを考えていると、声をかけられ、視線をそこに向けると汐見が立っていた。 手には数学のノートを持っている。 「課題見せろよ」 「……」 課題なんて、あったっけ。 数学の先生に出された課題を思い出そうして、無かったはずでは?と慶の頭にはクエスチョンマークが浮かぶ。 「は?おい、無視か?」 「あ、ぇ、え、っと……課題、あったっけ……?」 「はあ?あっただろ。昨日出されたやつが」 昨日……昨日? 「あの……ごめん。昨日は居なかった、から……」 「え、お前居なかったっけ。存在感無いから知らなかったわ。」 汐見は鼻で笑い、それから教科書を開いて問題を指差す。 それを視線で追いかけた慶は、書かれている数字を見る。 それだけで問題を解いた後、静かに顔を上げた。 「これ課題。全部解いて。あ、途中式もちゃんと書けよ。」 「……」 「さっさとしろよ」 「ぁ、あー……うん。」 ルーズリーフを取り出し、問題と途中式、解答を書いた。 ものの数分で課題を終わらせた慶は、その紙を汐見に渡す。 「ん、ありがと。」 「……どういたしまして」 汐見が離れてようやく一人になれた慶は、また溜息を吐いてペンを机に放りだす。 ああ、胃がしんどい。 授業なんか抜け出して、どこか温かいところで眠りたい。 それか、癒しが欲しい。 そんな時、頭の中にぼんやり浮かぶのは祐希の顔だった。
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