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「唐田はいつも頑張ってるな」
「え……」
「誰に評価されるわけでなくても、しっかりと丁寧に業務を行い、日に日に成長している。君の仕事ぶりは、素晴らしいと思う」
ふと課長がそんなことを言うものだから、酔って余計に弱くなっている涙腺が緩む。
「ありがとう……ございます」
こんなにも自分のことを、しっかりと評価してくれる人は初めてだ。
しかもそれが、課長だからこそ嬉しい。
「ごめん。泣かないで」
急に泣き出す私に、課長は困惑しているようだった。
申し訳なくなってすぐにタオルで涙を拭き、精一杯笑って見せた。
「凄く……凄く嬉しいです!褒めて貰えるなんて、夢にも思いませんでした」
幼い頃から真面目なことだけを取り柄に生きてきた。
だけど大人になると、その真面目さが逆に疎まれることも多くて。
そういう部分は自分の短所だって思っていたから。
「これからもそのお言葉に慢心することなく、精進します!そして、少しでも会社の役に立てるよう努力し続けます!」
突然立ち上がり熱弁する私を、課長はポカンとして見つめた。
……またやってしまった。
こうやってすぐに真に受けて熱くなってしまうから、周りからウザがられてしまうんだ。
「も、申し訳ありません」
小さくなりながら再び腰かけ、ビールを一気に飲み干した。
せっかくたくさん話せるようになったのに、このままでは課長に嫌われてしまう。
「やっぱり君は素晴らしいよ」
「え?」
課長は、今まで見たこともないような優しい顔で笑った。
「でも唐田はもっと自分に甘くした方がいいと思う。少しストイックすぎるぞ」
「そ、そうですか?」
「ああ」
「は、……はい」
自分に甘くか。
でも、どうやって?
今でも充分に己に甘い気がする。
こうして課長に心を奪われ、仕事中も邪念に囚われているし。
ここはもっと自分を律し、日々の行動を省みなければならない。
「精進致します!」
再び力強く頭を下げると、課長はまた笑った。
「だからそういうとこ!」
塩の課長はどこへ行ったんだ。
「じゃあ、良いこと考えた」
そう言って、頬杖をつきながら悪戯に私を覗き込む課長。
その妖しい瞳に惑わされ、くらくらと酔いが回った。
「俺が君を甘やかそうか」
「…………?」
今、なんて。
「ご褒美あげるよ」
「ご褒美……?」
じっとりとした視線で私を捉えながら、妖艶に笑う課長。
「何でもいいよ。君が望むもの」
何が起きているのかわからず、しばらくフリーズするしかなかった。
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