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「佐々木、これ入力ミス」
「すみません」
今日も天野課長の静かな叱責が、ここ資材調達・購買部のフロアを凍らせた。
プラスチック製品の製造会社、汐見化工に入社して三年目。
この部署がこれ程ピリピリとした雰囲気になるところを見るのは初めてのことだった。
理由は他でもなく、天野課長その人だ。
三ヶ月前に余所の部署からやってきた天野聖実。
30歳という若さで課長に就任したのは、様々な原料の価格高騰により赤字の危機に直面しているこの部署を立て直す為、彼に白羽の矢が立ったからだという噂。
現に彼によって予算は大幅に見直され、堪能な英語力を武器に外国のメーカーとも強気な姿勢でやり合っている。
しかし、早くも実績を出しつつあるのにも関わらず、天野課長はこの部署から浮いていた。
「天野さん、コーヒーいかがですか?」
「いえ、結構です」
隣の総務部からやってきた社内でも有名な美女、高梨さんの気遣いにも関わらず、目も合わせない課長。
「いやー、今日もサッパリしてる」
「アッサリしてるねー」
そう、課長は全ての社員に塩対応なのだ。
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