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「天野課長ってさ、イケメンだけどつまらんよねえ」
「あそこまで塩な人初めて見た。もしかしてAI?」
「今時AIの方がもう少し情緒あるでしょ」
両隣の女性社員、山内さん(右)と南さん(左)が、私なんて見えないかのようにひそひそ話をし笑い合う。
今日も私は、その真ん中でひたすら黙ってPCに向き合った。
新卒で入社して三年、この仕事は生真面目だけが取り柄の自分に合っていると思う。
膨大な量の仕入れ業務や在庫のチェックは神経を使うけど、何事も慎重に、入念な確認を怠らない性質の自分にはさして苦痛にもならず、黙々と集中できるのは楽しい。
絶妙なさじ加減で仕入れの量を考え、在庫過多にも不足にもならずに上手くはまった時の爽快感と達成感といったらない。
「唐田、ちょっといいか?」
突然、課長に呼び出され、ごくりと固唾を飲んだ。
こんなことは初めてだ。
まさか、ついに私もミスを犯してしまったんだろうか。
皆が見守る中、課長のデスクに近づく。
私を見上げる瞳は涼しげでありながら凛と凄みがあり、気迫に圧倒されてしまう。
「申し訳ありません。何かミスが」
「この報告書、素晴らしかった」
「…………え?」
思ってもみなかった言葉に絶句し、周りの方がざわついた。
「一つもミスがないどころか、とても見やすく工夫されている。読み手のことを考えたフォント設定とグラフ作り。改善点も一目瞭然だ。どうもありがとう」
まさか。
あのアッサリサッパリで有名な塩対応、天野課長に褒められるなんて。
「あ……ありがとうございます!」
驚きの後から徐々に沸いてきた妙な感動に、深々と頭を下げる。
「君は仕入れも上手い。いつも助かってる」
相変わらず無表情で一ミリも口角を上げないけれど、それでも嬉しかった。
課長はただ冷たい人間であるわけではないんだ。
正当に、真っ直ぐに評価してくれる。
こんな経験は、三年間仕事してきて初めてのことだった。
天野課長。
席に戻ってチラリと彼を一瞥する。
色白でスッキリとした顔立ちと、スーツが似合うすらっとした体格。
突如として胸が大きく高鳴るのに戸惑った。
そう、その日からだ。
私が彼を意識してしまうようになったのは。
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