初恋は、塩辛いと思いきや

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「お疲れ様」 「お疲れ様です」  生ビールを注文すると、課長も同じくビールのおかわりをし、成り行きで乾杯することに。  課長と盃を交わせる日が来るなんて、七月にして今年の運を使い果たしてしまったかもしれない。 「唐田、ビールなんて飲むんだな。意外だ」 「そうですかね?」  いつになく饒舌な課長が珍しくてくすぐったい。  それに、私のことを『ビール好きそうか、好きそうじゃないか』というカテゴライズをしてくれるなんて。  私なんてきっと、苗字と仕入れ担当ということくらいしか認識されていないと思ったのに。 「……なんか、そういうギャップいいな」  ボソッと呟いた台詞を決して聞き逃しはしなかった。  破裂しそうになる血管をどうにか抑えながら、大きく呼吸する。  ……やっぱり課長、酔ってる!  見てはいけないものを見てしまったような罪悪感に襲われながらも、できることならもっと意外な一面を見たいという欲が出てしまう。  何も期待しないのが私の特性のはずなのに、今夜はどうかしている。  男らしくジョッキを呷る横顔は凛々しくて、トクンと胸が弾んだ。 「課長、それ……」  ふいに目にとまった、テーブルに置いてあった新書。 「ああ。こうして一人で飲みながら読書するのが好きなんだ」  なんてことなくそう答える課長に、親近感が募った。 「課長!私も!私もです!」  興奮したように鞄から文庫本を取り出す私を、課長は笑った。 「課長……」  課長が笑ってるとこ、初めて見た。  目を細め、苦しそうに眉を歪ませる姿が愛らしい。 「気が合うな。唐田」 「はい……」  嘘みたいだ。  こんなふうに、一瞬でも心を通わせることができるなんて。 「でも課長、随分難しそうなビジネス書じゃないですか。私はエンタメ小説です」 「俺もそれ読んだよ。泣いた」 「泣いた!?」  塩なのに!?  会社での課長と雰囲気が違いすぎて、どっちが本当の彼なのかわからなくなっていく。  そのまま私達は本の話や仕事の話を弾ませて、あっという間に時間が過ぎていった。
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