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やっぱり課長の様子を一目見たい。
コンビニで差し入れを買ってから、オフィスに足を踏み入れた。
まだそこまで遅い時間ではないから、他の階には人がちらほら居そうだったけど、購買部のフロアはしんと静まり返っていて。
課長の邪魔をしないようにと、音を立てないようにそっと歩いて購買部へ近づいた。
____その時。
「天野さん」
中から女性の声がする。
鈴の音のような綺麗な高い声は、高梨さんであることがすぐにわかった。
「……唐田さんと付き合ってるなら、私浮気相手でもいいですよ」
信じられない彼女の言葉に、身体が固まって動かない。
予想外の展開に鼓動は瞬く間に速まり、怖くて中の様子が見れなかった。
「あの子じゃもの足りないんじゃないですか?真面目すぎるし、少し幼いっていうか」
冷や汗が止まらない。
足が震えて立っているのもやっとだ。
「絶対に誰にも言いませんから。……身体の関係だけでもかまいません」
待って。
「それくらい、天野さんのことが好きなんです」
お願い。
「……抱いて下さい」
……課長のことをとらないで!
自分でも信じられないくらいの衝動にかられて、居ても立ってもいられずにドアを開いた。
そこには、高梨さんに抱き締められ、目を見開いて私を見ている課長の姿が。
「しおり……」
あまりのショックに、持っていたコンビニのお菓子の山を床に落としてしまうと、拾う余裕もなく部屋から飛び出した。
「しおり!」
課長の私を呼ぶ声が聞こえてきたけれど、今は立ち止まって彼の顔を見れる余裕はない。
落ち着いて。
頭を冷やせ。
そう自分に言い聞かせながらオフィスから出ると、追い打ちをかけるように雨がポツポツと降り始めていた。
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