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課長がお風呂に入っているうちに、簡単な夜食を作ることに。
以前好きだと言っていた蕎麦。肌寒いから温かい方にして、疲労回復の為にとろろを添えよう。
そうこうしているうちにリビングのドアが開き、現れた課長を見て思わず菜箸を落とした。
「迷惑かけてごめんな。服もありがとう」
「い、いえ。弟が前に置いていったもので恐縮ですが」
スウェット姿の課長、貴重すぎる。
スーツ姿のビシッとした課長も素敵だけど、ラフな姿は愛らしくてたまらない。
思わずしゃがみ込んで悶える私を、課長は不思議がった。
同じボディソープの匂いがして、ますますドキドキが収まらない。
「お、お腹空いてませんか?お蕎麦茹でました」
気を取り直して調理を再開させると、今度は課長の方が突然しゃがみ込む。
「課長?」
「エプロン……」
「どうしたんですか?」
「……いや、なんでもない。蕎麦、ありがとう」
とりあえず迷惑ではなさそうでホッとする。
さっきまで塩系だったから、もしかしたら要らないって言われてしまうかと思った。
「いただきます」
ローテーブルに運んだ蕎麦を前に手を合わせる課長。
私の家で、私が作ったものを食べている課長を見ているのはくすぐったく、この上ない幸福感に満たされる。
「美味いよ」
それに、課長の雰囲気も元に戻った気がして嬉しい。
美味しそうに食べてくれる彼が愛らしくて目が離せないでいると、髪がまだ濡れていることに気づいた。
「ごめんなさい、ドライヤー出しとくの忘れてました」
引き出しから小さなドライヤーを取り出すと、課長の背後にまわった。
「……しおり?」
「気にしないで食べてて下さいね。ちょっと失礼します」
課長の後ろからそっとドライヤーを当て、指先で髪を撫でる。
自分のものよりコシがあって艶やかな彼の髪は触り心地が良くて、ドサクサに紛れてずっと触っていたくなってしまう。
心なしか、課長の耳やうなじが赤くなっている気がした。
「はい、乾きました」
「……ありがとう」
振り向いた課長は頬を赤らめながらはにかんで笑う。
「い、いえ。昔よく弟にしてたんで」
課長の可愛い笑顔に動揺して思わず出た言葉。
瞬時に彼がムッとしたのがわかって、すぐに後悔した。
「すみません!失礼ですよね、弟と一緒にするようなこと!そういう意味じゃなくて……」
「違うよ。弟さんにヤキモチ焼いただけ」
「……ヤキモチ?」
課長らしからぬワードに面食らって、私の顔も熱くなる。
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