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「こうやってすぐ嫉妬したり、独占欲が抑えられなくなったり。情けないな」
恥ずかしそうに苦笑する課長に何度も首を振る。
情けないどころか、そんなふうに思ってくれるのは嬉しい以外のなにものでもないのに。
「……私も。私もです」
もしかしたら、課長もそう思ってくれるかな?
「私もさっき、嫉妬してしまいました。高梨さんに、課長をとられたくないって。聖実さんを自分のものにしたいって。そう思ってしまいました」
恥ずかしさに課長から目をそらし、震える声を振り絞る。
課長はそんな私に向き直って、ぎゅっと力強く抱き締めてくれた。
「あー。なんか、泣きそう」
「泣きそう!?」
彼は耳元でクスクスと笑った。
吐息がかかって耳が震え、心を落ち着かせようとぎゅっと目を瞑った。
「俺がこうしたいって思うのは、しおりだけだよ」
優しい温もりが全身を包み込んで、ドキドキするのに心地良い。
そんなふうに思うのは、私だって課長だけだ。
後にも先にも、課長だけ。
ゆっくりと近づく課長の唇を待ち望むように、再び目を瞑った。
だけど、いくら待ってもその熱は与えられなくて。
「……やっぱり今日はもう帰るよ」
代わりに響いた残酷な言葉に、目を開いた。
「…………え……」
どうして……
「ごめん。これ以上居たら俺、」
「やっぱり私じゃもの足りないからですか?」
私の棘のある言葉に課長は目を見開いた。
どうかしてる。
課長に対してこんな憎まれ口をたたくなんて。
「私、初めてだから、……面倒ですか?」
でも、止められない。
うまく思いが伝わらない。
本当は、もっと可愛くおねだりしたかったのに。
「……そんなわけないだろ!」
怒りが滲んだ課長の声に身体がびくついた。
彼がここまで直接的に怒っているところを見るのは初めてのことだった。
圧倒されて呆然としている間に、彼は私をカーペットの上に組み敷いて、力強く両手を押さえつけた。
「……我慢してるんだけど。死ぬほど」
貫くような視線が少し怖かった。
課長はピクリとも笑わずに、じっとりとした目で私を見下ろす。
手の力が強くて身動きが取れない。
私の上に跨がっている課長の身体が熱い。
「人の気も知らないで……」
こんな課長、知らない。
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