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彼の鋭い視線に耐えられず、ぎゅっと目を瞑った。
緊張で全身の震えが止まらない。
「……ごめん」
課長はぽつりとそう呟くと、強く掴んでいた手を離し、私の髪を撫でた。
「しおりが大切だから、そう簡単に、自分の欲望任せに抱きたくなかったんだ」
優しく微笑む課長は、私の身体をそっと起こして肩を抱いてくれる。
「俺、しおりとのこと、一時の付き合いにしたくない。この間誓ったように、ずっと大切にしたいから」
「課長……」
「ゆっくり時間をかけながら、しおりのペースで愛を育んでいきたいと思った」
優しい彼の顔が涙でみるみるうちにぼやけていく。
自分の愚かさに恥ずかしくなりながら、何度も涙を拭った。
「ごめんなさい……」
ここまで大切に思ってくれていたのに、私は自分の気持ちばかりで。
「……好きです」
たまらずに両手で課長の手を握ると、彼も強く握り返してくれる。
「俺も好き」
微笑み合って、手を握って。
これだけでも充分、愛が深まっているような気がした。
「……でもさ、しおりの準備ができてるってことは、もう俺我慢しなくていいってことだよね?」
「え?」
課長は満面の笑みで笑った。
「今日は遠慮なく泊まらせてもらうよ」
「課長?」
「ちょっと待ってて。コンビニ行ってくる」
「課長!?」
課長は颯爽と玄関を出て行ってしまった。
「……泊まり」
ついに課長とお泊まり!
自分から誘っておいて、いざとなると緊張で居ても立ってもいられない。
さっきは勢いで言えたけど、一度落ち着いて我に返ってからだともっとドキドキする!
早く、早く心の準備を……
「ただいまー」
「はや!」
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