15人が本棚に入れています
本棚に追加
このゲームは、いわゆる国盗りゲームである。
プレイヤーはまず小国の王から始め、物資・兵隊が整い次第、隣国に攻め入る。単なる国盗りゲームと違うのは、狙うものが『水路』である点だ。
このゲームは、農業・商業・生活に必要な水路を手中に収めることで、敵国のパラメーターを下げることを主目的とする。それが一定レベルまで下がると、民衆が王の言うことを聞かなくなり、人口が一気に減る。人口は、すなわち王城の防御力と直結しているため、ゼロに近くなるほど減少速度が上がり、ゼロになったら強制的に国を奪われる仕組みだ。戦闘後、新領主誕生で流出した民の八割が戻り、水路を建設したり商業施設を建てたりして人口を増やす。先に述べたように、人口は王城の防御力と直結しているため、人口を増やすほど強固な国の運営ができるようになる。伴い、徴兵による兵数増加で、単純攻撃力が上がる。装備品は課金で整えられ、召喚魔法や攻撃魔法はイベントガチャで手に入る。装備課金は三百円で50ポイント、イベントガチャは10連で三千円という仕様だ。先ほど召喚した鳳凰は、神属性の最高レアの一種であった。
佐瀬と田頭のコンビは、二人仲良く重労働アルバイトとインターネットオークションで資金を稼ぎ、これまでに1700万円以上をゲームに注ぎ込んできた。『王アク』の世界では二人で同盟を組み、領土侵略率上位七人にしか与えられない称号『猛王』を獲得している。その七人の『猛王』同士が決戦する日も間近、というところで、運営が前触れもなく『お知らせ』を送りつけてきたのは一ヶ月前のことだった。
ソーシャルゲームに一定程度の力を注いでいる者は、この『運営からのお知らせ』を何よりも恐れている。タイトルの頭に【重要】と書かれていれば尚更だ。
そして、不安が現実のものとなった。先月の『お知らせ』には、短い謝意とともに、『三月三十一日をもって、本サービスを終了とさせていただきます。』と書かれていた。佐瀬はまさしく地獄に叩き落された気分だった。山の頂までもうすぐだと言うのに、他の『猛王』たちと戦うこともできずに終われるものか。サービス終了までの一ヶ月で、何としてでも『猛王』同士の頂上決戦をせねばならない。たとえ負けても本望だ。未だかつて誰も獲得したことのない『極みの王』の称号を目指さねば、ゲームに捧げ尽くしたこの三年間が灰燼に帰してしまう。
最初のコメントを投稿しよう!