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――そうですね。同じヒヤマですね。
新入社員向けのオリエンテーションで同じグループになった氷山に、私が「漢字は火の山と氷の山で対象的だけど、同じヒヤマですね」と言うと、氷山はそう返した。
ニコリと笑ったりはせず、ただ言葉を読み上げる。
感情なんて余計なものは、なにひとつ含まれていない。
氷山はいつもそんな話し方をする。
真新しいスーツもネクタイもしっくりと馴染み、暮らしのなかで自然と身に着くような愛想笑いも、新入社員らしい初々しさもない氷山。
精一杯、口角を上げて緊張を隠そうとしていた自分が、どうしようもなくちっぽけで滑稽な生き物に思えた。
一分にも、三十秒にも満たない短い会話。
それだけで、氷山の存在はぐさりと深く刺さった。
どうしたら、なにをしたら、この男の顔を変えられるだろう。
笑わせたい。
乱したい。
想いは願望ではなく、欲望だった。
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