シルフェストとの行商交易

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 シルフェストの主な特産は鉱石資源。魔道具の核になる魔石や、武具への加工に適した質のいい鋼などが揃う。リーヴはあくまで出来上がった魔道具の販売を行うばかりで、自ら製作を請け負うことはない。それでもシルフェストとの交易はかなり大事にしていた。  並び立つテントの中でひとつ、薬を扱っているところがあった。やけど、切り傷、毒消し、気つけ薬など、冒険者向けの飲み薬が多く並べられている。  リーヴはいくらか小瓶の薬を物色し、他の客が誰もいないところで店主へ尋ねた。 「トラッキルスは初めてですか?」 「えぇ。にぎやかないい町ですね」  気に入っていただけるなら嬉しいです、と言いながら、リーヴは自己紹介代わりのカードを差し出す。この行商外交ではこれからのお近づきに、とこうしたカードを交換する風習がある。 「薬屋さんなら詳しいかなと思うんですけど、「夢への旅路」という薬をご存知です? 多分、そちらでは作れない薬だと思うんですが」  店主はリーヴの言葉に、少し不思議そうな顔をしてこちらを見た。 「えぇ。先程ちょうど売りに来られましたよ。お目にかかるのは初めてです」  この薬屋を継いだばかりであまり詳しくはないのだ、と店主は付け加えた。ただ、その反応に今度はリーヴが驚く素振りを見せる。 「「夢への旅路」は、トラッキルスでも取り扱う店がかなり限られています。最近は質の悪い粗悪品や法外な値段をつけられたものも出回り始めているとか」  少し声をひそめ、店主の傍へ寄ったリーヴはカバンから薬袋を取り出す。店の机にそっと差し出した。 「こちらがその薬です。価格はこれくらい」  リーヴが提示した額を見て、シルフェストの店主が目をむいた。リーヴよりも前にやって来た行商は、この倍の値段で取引を持ちかけてきたらしい。効能を知っているトラッキルスの人間でも購入を少しためらう額だ。リーヴが先日購入した店の価格よりもなお高い。  仕掛けた「誰か」はずいぶんなごうつくばりだ、とリーヴは胸の内で苦笑する。  門外不出の製法で作られる秘薬。店主としても気にはなるが効能を試してみるわけにもいかず、一度保留にしたそうだ。懸命な判断だったと思います、とリーヴは店主の熟慮を称えた。 「今日はこれだけしか持ってきていませんが、最終日にはある程度まとまった数をお譲りできると思います。それでも、あまり多くはないですが」  シルフェストとの行商外交は五日間に渡って行われる。大体、初日は互いに挨拶と品見せ。中日三日で取引の詳細を詰め、最終日に正式に商品の売買を行うのが慣例だ。  いかがですか、と尋ねてみれば、店主は少し考えさせてほしい、と一度答えを保留にした。十分です、とリーヴは笑顔でその申し出を聞き入れた。 「それじゃあ、最終日にまた来ます。その時、答えを聞かせてくださいね」  薬屋のテントから出て、ふと空を見上れば、空の端が白み始めていた。夢の醒める時間が近づいている。リーヴはその後、魔石の原石をそこそこ数多く買い込んで、家へと戻った。
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