予期された襲撃

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「それで、なんだかずいぶん物騒だけどなんの用?」  答えはない。代わりに動いたのは女性の方だった。彼女の身体から湧き上がる魔力が、手にした杖へと込められる。 「レスター、頼んだ」  リーヴが小さく囁き願うのと、女性が鋭く呪文を言い放つのはほぼ同時。杖から迸る閃光に背を向け、リーヴはこちらを捕らえにくる男ふたりと対峙する。  男たちから見れば、リーヴが女性の魔法を警戒して距離を取ろうとしたように見えただろう。彼らは魔法を扱うわけでなく、実際にその身体でリーヴを捕らえにきていた。狭い路地には、逃げ回るほどのスペースはない。リーヴは右のポケットから球体の魔道具を取り出して投げ上げた。一瞬警戒して男たちは足を止める。  リーヴの投げたそれはちょうど彼の頭上で炸裂した。煌々と陽の光を裏路地に降り注ぐ。ただそれだけの目くらまし。一瞬こそひるんだ彼らだが、再度距離を詰めてくる。 「三対二の鬼ごっこは好きじゃないね」  リーヴは左のポケットから手のひらサイズの杭をいくつか取り出していた。それを地面へ撒くように投げ、リーヴはできる限り男たちと距離を取るために後ろへと下がる。  駆け寄ってくる男たちはその途中で動きを止めた。ともに背後から腕を捕まれ動けなくなったのだ。  男たちの背後に立つのは黒黒とした巨人。それぞれ一人に一体ずつ腕を掴み彼らを見下ろしている。男たちは振り払おうと腕を振るが、巨人の腕はびくともしない。表情もなくただ丸い虚ろな両眼が男たちを見下ろしている。どんな表情を浮かべているのかリーヴからは見えないが、それでも彼らが恐怖にかられているのは確かに分かった。  こちらへの警戒が薄れたその隙に、リーヴは距離を詰める。その両手には一本の長いロープ。男たちが捕らえられている場所はさほど離れていない。リーヴが手にしたロープを投げれば、それは自ずから男たちふたりをまとめて捕らえて縛り上げた。  縛り上げられた男たちは黒い巨人の拳ですっかりとのびてしまった。その頃にはリーヴの投げ上げた陽の球も効果を失い、あたりに静寂と暗闇が戻ってきていた。それに合わせて、黒い巨人も姿を消す。  リーヴは地面に刺さった杭をひとつずつ抜いていく。影に打てばその影の形を写し取り巨人を作り出す魔道具だ。さほど強い力を持つわけではないが、今回のような足止めには十分役に立つ。  ふぅ、とリーヴは額ににじむ汗を拳で拭った。  リーヴは魔法を扱うことができない人間だ。魔法とは、体内にどれほどの魔力が貯蔵されているかによって使用の可否が決まる。リーヴは今、他者の魔力を視ることはできても、自分が魔法を扱うだけの魔力を持つことができない。  ただ、今のトラッキルスは魔法を使えずとも、魔道具があれば不自由ない暮らしができるようにしていける。魔道具の発展に貢献した原初の思想をリーヴは詳しくこそ知らないが、先達の知恵を存分に活かす形で今を生きていた。
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