エピローグ

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エピローグ

 翌日。例のごとく起床は昼に近くなったが、仕事終わりで気分はいい。  ほんの少し、いつもよりも良い肉を取り出した。フライパンで少し多めの油を熱し、衣をつけた肉を投入。耳に美味しい音と香りに自然と頬が緩む。  そうして出来上がったチーズ入りカツレツに軽く炙ったパンを添え、貯蔵庫から取り出してきたのは満月酒。月明かりのよく当たるところに瓶を置いておくと、月の光を溜め込んでとろりとした酒になる。仕事終わりの食事に出すとっておきだ。  あつあつのカツレツはいい塩梅にカリッと揚がっている。ナイフを入れればチーズがとろけ、そのままでもパンと一緒に食べても美味い、いい出来だ。  レスターへ出す食事も、いつもより質も量も良い肉だった。今回の仕事は彼も十分に助けてくれた。ねぎらいも兼ねている。 (けど、今回も空振りか)  はぐはぐと食事をすすめるレスターを視ながら、リーヴはそうひとりごちる。  妖精族の彼女を捕らえた一派は、「夢への旅路」をシルフェストとの行商交易で売りさばくのが最終目的だったようだ。けれどリーヴの元へ妖精族の彼女を探すよう依頼が来たこと、そして「夢への旅路」の流通絡みの事件だと気づき、妨害を行ったおかげで計画が破綻。もし本当に安価で取引ができるほどの薬を確保しているなら、その薬も奪ってしまおうとリーヴを襲撃した、という顛末だったらしい。  ただ、リーヴは襲撃者たちの記憶をほんの少し書き換えていた。彼らは「行商交易の見物に来ていた妖精族を新たに薬の作り手にするために襲撃した」ことになっている。リーヴとレスターのことを知るのは、依頼人と妖精族の彼女だけだ。  今回の事件の主犯格は、リーヴが追い求めていた事件とは関わりがなかった。  リーヴが「探し屋」をする理由。それはレスターを「不可視の獣」からもとに戻すためだ。  彼はこの街で後天的に「不可視の獣」にさせられた。レスターの左目に埋め込まれた魔石を元の瞳に戻せたならば、彼の「不可視」の魔法も解ける。リーヴはそれを探し続けているのだった。  レスターはもとより希少種の獅子だ。体の一部ですら、闇で高く取引されているという。そうなれば今なお誰かが持っている可能性は十分にあった。  満月酒のグラスを傾ける。とろりとした舌触りとまろやかな風味を味わいながら、ひとつため息をつく。  そこへ、食事を終えたレスターがこちらまで近寄ってくる。ひょいとリーヴの食事を飛び越え、膝の上へと収まった。機嫌よく喉を鳴らすレスターに、リーヴは肩の力を抜く。 「まぁ、そーだな。とりあえず、おつかれ」  不可視の陽炎のたてがみを優しく撫で、彼の労をねぎらった。
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