妖精探し

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 リーヴの店にある、空のケージ。その中に棲む「不可視の獣」  それは、陽炎のたてがみを持つ獅子である。彼は強い魔力を取り込むことによって、自身の体躯に本来の「色」を取り戻すことができる。リーヴの唯一の同居人であり相棒だ。  リーヴが彼に頼むのはひとつ。この魔力と同じ匂いの持ち主を探すこと。  依頼人曰く、失踪した彼女が最後に向かった先はこの花畑であったという。  霊峰イスベルクにはここでしか見られない草花が様々群生している。観賞用から薬草まで、その用途は様々。夫の滋養強壮の薬を作るため、と彼女はこの場所に向かったそうだ。  妖精に限らず、消え失せたというものを探すのなら、最後にあった場所を始めに探すのは定石。リーヴは魔力の匂いを覚えさせ、その体躯をそっと撫でる。 「お前なら分かるだろ、レスター。彼女はどこへ行った?」  リーヴの手の下をすり抜けて、レスターは花畑を少しさまようようにあてどなく歩みを進めたその後に、リーヴが願った匂いを嗅ぎ取ったのか勢いよく駆け出した。リーヴをおいていく形で駆けて行った先は霊峰イスベルクを下る道のり。 (やっぱりかぁ)  リーヴはがしがしと頭をかいた。そうでなければ、と願う方へ物事が転がっていくのは昔から。今更嘆いたところで何も変わりはしないのだが、たまにぼやくくらいのことはさせて欲しい。  リーヴは手にした指輪を再びポケットへ放り込むと、おぼろげに色をにじませた相方、レスターを追いかけ下山を始めた。  レスターとの付き合いも長くなった。彼もこちらのことは意識しているようで、あまりひとりで先走ることもない。少し先へ行ったところで、レスターはリーヴのことを待っていた。リーヴはレスターに追いつく度に柔らかく撫でてやる。撫でられればまんざらでもなさそうに体躯を震わせ、またリーヴの腕からすり抜けて先へと歩む。  実のところリーヴはとある「権能」のおかげで、レスターに追いつかずとも彼の行き場所がある程度は分かる。けれどそれを「不可視の獣」のレスターは理解をしないし、あまりリーヴ自身も吹聴するつもりがなかった。  探し人ならぬ探し妖精の痕跡を追えば、いつの間にか霊峰イスベルクから下山を果たし、リーヴとレスターは街中へと戻ってきていた。  その頃にはおぼろげにでも視認できていたレスターの姿は元通りの無色透明に戻っている。周囲に見咎めるものがいないタイミングを見計らって、リーヴはレスターをひょいと抱えあげた。突然のことに少しばたばたと四肢を暴れさせていたようだが、それもすぐに収まる。なだめるようにリーヴは頭をなでてやり、そっとカバンへ彼を入れ込む。 「もう少し待っててな」  街中へ戻ってきた以上、彼を自由に走らせてやることは出来なかった。窮屈な思いをさせているのはわかっているが、彼の身を案じる以上譲れないところもある。それを、彼も理解はしているはずだ。
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