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レスターがリーヴを導いたのは、トラッキルスの中心部。三角の尖った茶色い屋根の住宅が道沿いに連なり、大通りの奥には霊峰を祀る教会塔が立っている。リーヴが居を構えている場所は「職人地区」だが、このあたりはちょうど「輝石街」を挟んで反対側にあたる。
昼も過ぎ、日々の買い物に出かける者、午後の仕事に向かうもの、連れ立って駆け出していく子どもたちと、街中はなかなかに賑わっていた。
大通りには飲食店が並び立つ。買い物のひと休みに、と客引きをする声もよく響いてくる。散策を装いながら、リーヴは人々の表情を観察していく。
町は人が作るものだ。そこに生きる者たちが町を生かしもすれば殺しもする。
(この辺りはもう探した後なんだろうな)
トラッキルスの人口比率は、人間が四割、翼翅種が三割、獣人が三割ほど。そんな多種族的な街だからこそ、この町の警察は種族の差別はしないし、移民にも寛容だ。
ただこの町の警察は相手の権威や立場を仕事の正確さに勘案する、というよろしくない悪癖を持つ。それでも依頼主がジャッカル頭の公人であるなら真面目に仕事をしただろう。
(人が多いとこは苦手なんだけど)
そっと立ち止まり、一度目を閉じる。脳内の「回路」を切り替えて目を開けば、町並みはその表情をガラリと変える。
言うなれば自由気ままにインクをぶちまけたような、色の奔流が視界に広がる。「色酔い」しないように少し目を眇めながら、リーヴはポケットに放り込んでいた指輪を見た。その指輪は、ほの明るくも淡い赤色の魔力をまとっていた。
リーヴは魔力を「色」として知覚する。魔力を、魔力の残滓を視ることができる。
リーヴの持つ目が人間には与えられない「権能」だと教わったのは幼くして亡くなった両親から。リーヴがひとりで生きるために困らないように、と両親は様々なことを教えてくれた。
魔力は、魔法を使うその時が一番強く検知される。魔法を使えばそこに残留する形で魔力の残滓が残る。もっと言うならば、ただ人が生きているだけでも魔力は漏れだし、風景をわずかにだが染め上げていく。そして、魔力は人によってその色を変える。リーヴはそれを視認する。
ただ、生き物の漏らす魔力は微弱なものであるし、大気中に漂う魔力も風や雨によって霧散するため、長くその場にとどまっているものではない。
結果として、今回のように一週間も経ってしまった魔力の残滓を追いかけるのは難しいのだ。
けれど、「不可視の獣」のレスターは違う。彼は、リーヴよりも正確に魔力の残滓を追うことができる。彼の感覚で最も優れているものは嗅覚であるという。実際、リーヴに視認できなかった魔力の痕跡をレスターが捉えて追いかけたことは数知れない。
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