金平糖とごぼうとアリス

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 人間の脳みそってすごい。  ひと目見ただけで、目の前にあるものの危険性を察知する。  カラス。ゴキブリ。黒猫。黒字に黄色のナンバープレート。  不吉なものって、黒が多いな。黒いテーブルに金平糖を並べて、左から食べていく。10個ずつ。  これは、ゆっくり少しずつ食べるための工夫だ。小さな金平糖とはいえ、束でかかってくると結構な強敵になるのだ。一袋396キロカロリー。まあ、結局全部食べてしまうのだけど。  毎日一袋ずつ食べてしまう。あのガリガリした食感が、やみつきになってしまったのだ。震度1ミクロンの微弱な地震。黒い宇宙にちりばめられた星たちは、瞬く間に唇からブラックホールへと吸い込まれてゆく。  毎日続けていたら。そのうち、避けられるようになった。人から。 「私、危険人物になっちゃったみたい」  アミに言うと、アミは私の体を上から下まで見て、 「フフッ」  と、笑った。そして、 「働けよ」  と、言った。  それ以来、アミから連絡はない。  どうしよう。アミ、いなくなっちゃった。たった一人の親友だったのに。私のスマホの連絡先の中で、たった一人、アミだけが頼りだったのに。あとは家族、昔の友だち、昔の同僚、クソばっかり。クソクソクソクソ。  金平糖の袋をまさぐる。金平糖は尽きている。開けたそばから食べてしまうのだから、当然だ。  コンビニに買いに出た。 「バイト募集中」  コンビニの貼り紙を見て、思った。  ……働くか。  金平糖を持ってレジに行き、 「働きたいんですけど」  と申し出る。  ツーブロックのバイトくんはおびえて、 「大丈夫です」  と金平糖の支払いすらせず、バックヤードに逃げていった。  なんで。  帰る道中、涙が出てくる。  スーパー、パン屋、たい焼き屋。何も買う気が起きなかった。そこには、働きたくて働けている人たちがいたから。  レンタルショップの窓に映る私は……  スウェットを着たカバだった。  汚い。  汚い私を自撮りした。泣きながら。  そして、SNSにあげた。モザイクも何もない、ありのままの汚い私。 「無職です。働かせてください。でも何もできません」  誹謗でも中傷でも、何でもしたらいい。むしろ精一杯がんばって誹謗中傷してほしい。私を苛み続けてほしい。そして、私を本当にこの世から、抹殺してほしい……。  けれど何も起こらなかった。  それもそうか。  私にはフォロワーなどいない。  誹謗中傷というのは、有名税だ。見られている証拠だ。私など、ひと目でみんな逃げていくのだから、透明人間以上の透明感だったのだ。
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