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金平糖食べたい。
けれどもうあのコンビニには今日は行けない。あのバイトくんに出会ったら、今度は通報されるかもしれない。
つらい。
と、思うと、ダイレクトメールが一件だけ来た。
「となりに座ってくれるだけでいいのですが、いいですか。当方日本人です。27歳です。男です。報酬は、いくらですか」
日本人か。同世代か。男か。
いやだな。
と思ったが、すぐ了解した。背に腹はかえられぬ。報酬は、一時間あたり千円にした。コンビニの貼り紙にそう書いてあったからだ。
最寄駅を聞くと、意外と近かった。だから男の最寄駅に出向くことにした。
スウェットでない服を着て、電車に乗る。そこそこ混雑した車内で、私の周りだけ人がいない。「くさい」と子どもが言った。
逃げ出すようにして電車を降りると、やせた男が手を上げながら近づいてきた。
「アリスさんですか」
「は、はい」
「はじめまして。仙石清志郎です」
「仙石清志郎」さんは無精髭を生やしたごぼうのような人だった。Tシャツに「平和」と書いてあった。
「ちょっとコンビニで、お茶買っていいですか」
とごぼうは言った。
「アリスさんは、何か買いますか」
とごぼうは言ったので、「こんぺいとう」と言ったら、ごぼうは金平糖も買ってくれた。
公園まで来て、ベンチに座る。
「ブスー」
誰かが言った気がする。
「す、すすす、座ってるだけでいいんですか」
人としばらく話していないので、うまく話せない。
ごぼうは
「あ、はい」
と、言った。
「眺めたいだけなんで。僕より確実に下の人間を」
と、言って、静かに笑った。ごぼうの目はきれいだ。太陽の光で、きらっと光った。
私は泣きそうになって、目をそらし、うつむいた。
ごぼうは、500mlのペットボトルを飲みほすと、
「じゃあ、この辺で」
と、急にお開きにした。くさかったのかもしれない。
「あっ」
私が声を出すと、
「……あっ。そうだ。一時間千円、でしたっけ。まだ30分くらいですよね」
と、ごぼうは千円くれた。
「……あっ、あと、あの」
「は?」
「……こ、ここここ」
金平糖。
と、言えなくて、袋を差し出した。
「え? へへ」
「……食べなかったから」
「え? あげますよ。それくらい。それ買うカネもないんでしょ」
「いや、でも」
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