14人が本棚に入れています
本棚に追加
人間の脳みそってすごい。
ひと目見ただけで、目の前にあるものの危険性を察知する。
カラス。ゴキブリ。黒猫。黒字に黄色のナンバープレート。
不吉なものって、黒が多いな。黒いテーブルに金平糖を並べて、左から食べていく。10個ずつ。
これは、ゆっくり少しずつ食べるための工夫だ。小さな金平糖とはいえ、束でかかってくると結構な強敵になるのだ。一袋396キロカロリー。まあ、結局全部食べてしまうのだけど。
毎日一袋ずつ食べてしまう。あのガリガリした食感が、やみつきになってしまったのだ。震度1ミクロンの微弱な地震。黒い宇宙にちりばめられた星たちは、瞬く間に唇からブラックホールへと吸い込まれてゆく。
毎日続けていたら。そのうち、避けられるようになった。人から。
「私、危険人物になっちゃったみたい」
アミに言うと、アミは私の体を上から下まで見て、
「フフッ」
と、笑った。そして、
「働けよ」
と、言った。
それ以来、アミから連絡はない。
どうしよう。アミ、いなくなっちゃった。たった一人の親友だったのに。私のスマホの連絡先の中で、たった一人、アミだけが頼りだったのに。あとは家族、昔の友だち、昔の同僚、クソばっかり。クソクソクソクソ。
金平糖の袋をまさぐる。金平糖は尽きている。開けたそばから食べてしまうのだから、当然だ。
コンビニに買いに出た。
「バイト募集中」
コンビニの貼り紙を見て、思った。
……働くか。
金平糖を持ってレジに行き、
「働きたいんですけど」
と申し出る。
ツーブロックのバイトくんはおびえて、
「大丈夫です」
と金平糖の支払いすらせず、バックヤードに逃げていった。
なんで。
帰る道中、涙が出てくる。
スーパー、パン屋、たい焼き屋。何も買う気が起きなかった。そこには、働きたくて働けている人たちがいたから。
レンタルショップの窓に映る私は……
スウェットを着たカバだった。
汚い。
汚い私を自撮りした。泣きながら。
そして、SNSにあげた。モザイクも何もない、ありのままの汚い私。
「無職です。働かせてください。でも何もできません」
誹謗でも中傷でも、何でもしたらいい。むしろ精一杯がんばって誹謗中傷してほしい。私を苛み続けてほしい。そして、私を本当にこの世から、抹殺してほしい……。
けれど何も起こらなかった。
それもそうか。
私にはフォロワーなどいない。
誹謗中傷というのは、有名税だ。見られている証拠だ。私など、ひと目でみんな逃げていくのだから、透明人間以上の透明感だったのだ。
最初のコメントを投稿しよう!