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円城寺孝徳は四ノ国の渦潮の町で以前世話になった。彼こそが僕に行商人の仕事を教えてくれた人である。かつて会ったときはまだ若々しかったため一目ではわからなかった。
「どうしてまたこんな北の大地に?」
「知り合いに呼ばれましてな。あんたさんは?」
「ナリゲシの花を探しに」
「ほう、聞いたこともない花だ。誰かに頼まれたのかい?」
「成芥子のお嬢様に頼まれましてね」
「はあ、藤吉郎の娘か。そりゃあご苦労なことだ」
「藤吉郎さんとはお知り合いで?」
「以前、病気になったときに治療してもらったことがある。ありゃあいい医者だ」
「そりゃあ、医師の名家の出ですから」
「そうだな。……しかしナリゲシか。この大陸の者でなければわからんだろうな」
「そうなのです。それで困っている。とにかく北の岩山に咲くという話しだけを頼りに今旅しておるのです」
「そうか。……うむ、それなら儂の知り合いの元に共に行こう。このあたりの者とも親しくなったと言っておったからきっと役に立つ」
「そうですか。それはありがたい。是非とも頼みたい」
「ならば。これからしばらくともに行動しよう。9年ぶりにな」
「そうしましょう」
ここでの円城寺殿と再会できたことは幸運であった。これでナリゲシの情報を手に入れることができれば盆までに灯台の町まで余裕で戻れる。この幸運は生かさねば損だ。
汽車は炭鉱に向け進み続けている。
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