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炭鉱の町
汽車が終点駅に到着したようだった。いつの間にか眠っていてここまでどのくらいの時間を要したのかよくわからない。空はまだ明るいようだ。横を見ると円城寺殿も眠っていた。肩をゆすって起こすとうあぁと大きなあくびを一つして目を覚ました。
「円城寺殿、どうやら終点についたようです」
「おおそうか。では早く下りないとな」
俺は足元に置いておいた背負子を持ち上げて背負った。円城寺殿は大きなトランクを持ち上げて、狭い通路を身を細めて進んでいくので私も後に続いた。
外に出るとそこは木造の家がずらりと並んでおり、待ちゆく人は殆どが女性か子供で男は目にしない。炭鉱の町なのだからきっと男たちは石炭を採掘するために穴を掘っているのだ。危険な仕事だが、石炭がなければ今乗ってきた汽車だって動かないのだから、人々の生活を支える重要な仕事である。私の地元も鉱山の町であったからよく知っている。
「カミノマくん、君は懐かしいのではないかね?」
「ええまあ。ところで、円城寺殿の知り合いというのはどこにお住みなのですか?」
「この炭鉱から少し離れた集落にいてな。医者をやっている」
多くの者と言葉を交わす機会のある医師という職業であれば現地の人たちと仲良くなるのも早いだろう。これはかなり期待が持てそうだ。
「駅を出て左の通りをまっすぐ進む。道中はずっと上り坂で少々きついが、登り切った先に集落がある」
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