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「出会わないことを願うよ」
「ああそうだ。これこれ、岩山を登るのなら持って行ってください」
佐伯さんが袋から取り出したのはなめし革でできたマントのようなものだった。羽織ってみるとずいぶんと温かい。
「いくら夏とは言っても高い山に登ると寒いですからね。それくらいはないと凍えて死んでしまう。差し上げますのでどうぞ使ってください」
「これはどうも。ありがたく頂戴します。では俺はこれを」
あまり人からものを貰う主義ではないので、俺は背負子から外国の商人から仕入れた食器を手渡した。
「こんな高価なものはもらえませんよ」
「世話になった礼です。それくらいでなければ釣り合わない」
「しかし、これは売り物でしょう?」
「いいのですよ。山登りするのだから少しは軽くしておいた方がいいし、何かの拍子に割れては売り物にもならなくなる。あなたが貰ってください」
ずいぶん長いこと渋ったが最終的には仕方のなさそうに受け取ってくれた。
「それではお達者で。円城寺殿にもよろしくお伝えください」
「わかりました。それでは」
空は明るくなってきていて、森の中に入っても視界は効くだろう。革製のマントを羽織って俺は一番近くに見える岩山目指して歩き出した。
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