Seen1 嘘つき女優

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「この作品は、1年ほど前から構想を練り始めて、主人公愛菜の相手役を務める久城くんと話し合いながら進めてきたものになります。正直、話題になること間違いなし、と言う自負があります!」 作品への想いを語る監督。 監督と久城さんは過去作でも一緒に映画を作っていて…その映画はその年の日本映画大賞を受賞しているすごい作品だ。 二人が再びタッグを組む作品に出演させてもらえる、しかも主演で…なんて、喜ばしいことのはずなのに、 やっぱり、そんなすごい作品に私を選ぶだなんて絶対間違ってるって思っちゃう。 選んでもらったからには、頑張らなきゃ…監督の作品への想いを大切にしなきゃ…って、そう思うけど、…気持ちに実力が追いついていないことがもどかしい…。 その後、監督の進行のもと、私たちキャストが簡単な自己紹介を済ませると、仮で渡されていた台本の読み合わせがスタートした。 これも自己紹介の一部で、自分はこういう演技をしますよーというようなアピールの場だ。 シーンは、私演じる愛菜と、久城さん演じる拓人の出会いのシーン。 バーで拓人に目をつけた愛菜が拓人に無理やりキスをして、「あなたが欲しい」と囁くというものだ。 正直、初対面でキスする意味も分からないし、「あなたに一目惚れしました」とかではなく…何故「あなたが欲しい」なのかもよく分からない。 ただ、括弧の中に(愛菜、妖艶に囁くように)とあるので、とりあえず参考になりそうな映画で片っ端から勉強はしてきた。 読み合わせのためだけに、ここまで気合を入れて練習してきたのはたぶん、この中で、私一人だと思う。 出来ないことを補うのはひたすら努力。モデルの時もそうやって壁を乗り越えてきたんだ。 私を選んだ意図は分からなくとも、お金を貰って働くプロとして…精一杯のことをやらなければならないというプライドだけは一応持ち合わせている。 一人だけボロボロになった仮本を両手に握りしめて深呼吸をした。
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