1145人が本棚に入れています
本棚に追加
「どう…って、ねえ、それって俺のこと誘ってる?」
「え?何にですか?」
「…うーわ、ずるい子。」
首を傾げるとげんなりした顔を見せて、パイプ椅子の背もたれを使って体を退け反らせる昴くん。
なんだか怒らせてしまっただろうか…と、眉尻を下げると、「俺じゃ女性の演技は教えられないし…AVでも見れば?」とやや投げやりな返答が返ってきた。
「え、AV…?」
「アダルトビデオ。」
「そ、それくらい知ってます!」
「見たことあるの?」
「…な!…ないですよ!」
目を見開いて言い返すと、クスッと笑われて、「別に恥ずかしがらなくていいよ。」とあしらわれる。
ほ、本当に見たことないのに…!
要らぬ濡れ衣を着せられて、「ほ、本当に見たことないですよ!?本当ですよ?」と、必死に言う度に自分でもどんどん嘘くさくなっている気がして泣きたくなる。
ううう、と唸る私を見て、「はいはい、分かったから。」と子どもを慰めるみたいに頭を撫でた後、
「でも、本当に恥ずかしがることじゃないから。」と改めて真剣な顔で言い直した昴くん。
「俳優でも、演技の勉強で見る人少なくないよ。ほら、AV女優も男優も魅せ方のプロだから。表情の作り方とか声とか…勉強になることも多いと思う。」
「…た、確かに…そう、ですね。」
そう説明されれば、AVを見たことがないのを必死にアピールしていた自分が、逆に恥ずかしくなってくる。
経験ないくせに、勉強すらしてませんって言っているようなもんじゃないか…。
「す、昴くんも…AV、とか見るの?」
この手の会話を男性としたことがない私。
挙動不審に視線を彷徨かせながらやっとの思いで尋ねれば、彼は余裕の表情でフッと笑って、「俺には勉強の必要ないかな?」と意味深に微笑んだ。
最初のコメントを投稿しよう!