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仕事終わり。木嶋さんに家に送ってもらってすぐ。
私の一人暮らしのマンションの裏側に停車した黒いSUV。
暗がりに目を凝らして車の中を覗き込むと助手席側の窓がウィーンと下がる。
「みーちゃん。」
「…っす、…すば、じゃなくて……すー…くん?」
「あはは、なんそれ。早く乗りな?」
ハンドルに手首を引っ掛けながらクシャッと笑った昴くんは手招きをして私を車の中に招き入れた。
「えっとね、誰に見られてるか分からないし、名前で呼んだら駄目かな?と思って。」
もごとごと訳を話しながら車に乗ると、膝に置いたバッグを持ち上げて、後部座席に移動してくれる昴くん。
「ありがとう」と伝えると、すごく自然な流れで「いえいえ」と私の横髪をひと撫でして、ハザードランプに手を伸ばした。
「人目につかないところに車停めたから大丈夫だと思うけど、確かに外で名前は呼ばないほうがいいかもね。」
低く冷静な声でそう言ったくせに「てか、すーくん、って可愛かった。もう一回言って?」とすぐに戯ける昴くんに笑ってしまう。
先ほど勢い任せに紡いだ彼の新しい呼び方。
もう一度、とリクエストを貰えば断るわけにはいかないけれど…
「む、迎えにきてくれてありがとうね?…すーくん。」
「え、なにそれずるい。可愛いやつじゃん。そんなあざといのいつ覚えたの、みーちゃん?」
「う、…あ、改めて名前だけ呼ぶの恥ずかしいから、会話に混ぜたのぉ…!別にあざとくないもん…」
「えー?俺は見事に釣られたけどね。」
「も、もう!揶揄わないで!昴くん!」
さりげなく言ったつもりなのに、全然さりげなく流してくれない昴くん。そうやって恥ずかしいところを見事に捕まえて、弄るんだから…本当に意地悪な人。
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