1145人が本棚に入れています
本棚に追加
対向車のライトに照らされる彼の顔は前を見据えたまま、真剣な顔で言葉を紡ぐ。
「こういう職業だし、リスクはもちろん分かってるけど、そんなことより美波を一人で俺の家まで来させるほうが気が引ける。」
「…、」
「別に美波が嫌じゃないなら、俺が美波の家に行くか、俺の家に来てくれる時は迎えに行きたいかな。」
消音で流れる音楽と混じって耳に馴染む落ち着いた声。
いつも私を苛めたり、揶揄ったり…そんな昴くんだけど、やっぱり根本的には優しくて温かい、そんな彼に自然と頬が綻ぶ。
私の我儘で会ってくれているのに、そこまで迷惑をかけて申し訳ないけど、彼が私を大切に扱ってくれている感覚がすごく嬉しい。
…なんて、そんなのただの錯覚なのかもしれないけど、それでも、やっぱり嬉しいの。昴くんに優しくされる度に…コントロールできないくらい表情筋が緩んじゃう。
「…いいの?本当に。」
念を押すように声を潜めて聞くと、柔らかい笑い声の後、こちらに伸びてくる左手。
「師匠の好意に甘えなさい。弟子を守るのが師匠の役目なんだからね。」
「…っ、は、はい。」
私の手を包み込んで、そのまま肘置きに肘を置いた昴くん。
キスしても、抱きしめ合っても、手を繋いでも…
彼に触れた一部分から熱い熱がジリジリと広がって、私の全身を蝕むのだ。
これが何なのか。
答えは、夢を存続させるために必死に熱望したそれだというのに…鈍感な私はまだ気づけないでいる。
最初のコメントを投稿しよう!