Seen4 危険な鑑賞会

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後ろからぎゅっと腕を前に回されて、ふわりと香るシャンプーの匂い。 お風呂上がりでいつもより高い体温にドキドキが止まらないのに、ウキウキワクワク心が弾んじゃう。 「じゃ、二人とも綺麗になったし、勉強会しよっか?」 そう言ってまたマウスに手を伸ばす昴くんに、「え、…また見るの?」と困惑を示す私。 「だって、これ全然序盤だよ?」 「…う、でも…」 「美波が演じなきゃいけないのは、これを経た後の行為なの。分かる?」 「…うん、」 優しいけど芯のある声。プライベートではなく、俳優の先輩としての意見だ。 「俺たちは実際カメラの前で行為をするわけじゃないけど、律動とか息遣いとか、そういうのは表現しないといけない。」 「…」 「“嘘”を“本当”に見せるっていうのはすごく難しい。でも、やらなきゃ、役をお客さんに見てもらうことはできない。そうでしょ?」 「うん。」 “本当”を知らなければ“嘘”すら演じられない。 それをどうにかするために…昴くんは今私といてくれている。 そう思えば、泣き言なんて言っていられない…と、負けず嫌い、仕事モードの自分が顔を出す。 「たとえ“嘘”だとしても、お客さんにとっては“本当”に見えるように…それが俺たち役者の務めだ。そのために美波はどうするんだった?」 「…お勉強します。」 「そうだね。えらいえらい、みーちゃんえらい。」 「…」 犬を褒める時みたいに顎をくすぐりながら、体を前に倒した昴くんは今度こそマウスに触れて再生ボタンをクリックした。
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