Seen1 嘘つき女優

11/27
前へ
/548ページ
次へ
『…なんか、用ですか?こんなところで待ち伏せるなんて。』 同じセリフ。…さっきよりは落ち着いて聞けた。 『あなたがトイレに行くのが見えたから。着いてきちゃった』 小悪魔っぽく可愛く明るく、…でも色気のある感じで…。 数日前から研究している、愛菜に似た性格の役を演じた女優さんの演技を思い出しながら声を出す。 『…ナンパですか?俺、そういうのに引っかからないから、他探せば?』 『へー、慣れてるんだ?…じゃあここまでしたら?』 『…っ、』 キスの描写…は、どうすればいいんだろう。 本読みだけだから特に言葉はいらないのかな? よく分からず、キョロキョロとあたりを見回したが、みんな台本を見ていて教えてくれない。 『…なにしてんの?』 「…、あ、えっと」 少しの間の後、次のセリフを読んだ久城さんに慌てて台本に戻って自分のセリフを探し、 『あなたが欲しいの。』 そのシーンラストのセリフを口に出して、ほっと息をつく。 よし、…なんとか、形にはなっていたんじゃないかと思う。 緊張はしていたものの、練習してきた通りの演技ができた、と…満足して顔を上げたのだが…。 室内にいる人たちの空気が重い。 不安そうな、訝しげな…、そんな表情でチラチラと私を見ている。 すぐに分かった。 あ、…私、ダメだったんだ…って。 「ま、まあ…撮影は1週間後だからね、それまでにより役作りを頑張ってもらうってことで。」 「…は、はい…頑張ります。」 監督の励ましに、久城さんは何も言わなかった。 その励まし、というか…もっと役作りを頑張れという指示が、明らかに私に対するものだったから。
/548ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1146人が本棚に入れています
本棚に追加