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その後は他のキャストの出演シーンの本読みが行われ、監督の締めの挨拶を経て、顔合わせ会は幕を閉じることになった。
練習したにも関わらず、そして、練習の成果を出したにも関わらず…及第点を貰えなくて。肩を落としながら席を立った私。
俯いた視界の先、影に覆われた床に気がついてふと顔を上げると…
「…」
「久城…さん」
私より15センチほど背の高い久城さんがこちらを真顔で見下ろしていた。
蛇に睨まれた蛙。全てを見透かしてしまいそうな茶色がかった瞳に…見つめられて、思わず息もできずに固まる私に、
「ねえ、…ちゃんと台本読んできたの?」
そう、一言放って…。
呆れたようなため息と共に踵を翻した彼は、呆然とする私を置いて、マネージャーとともに会議室を後にした。
手に握る仮本がぐしゃりと潰れた。
私に演技なんてできない。
…でも、なんとか迷惑をかけないように…最低限の演技ができるように頑張ったけれど。
…無駄だった。
努力をすれば、頑張れば…。
苦手なことでもどうにかなる……わけではないことを突きつけられた瞬間だった。
「ううううう、木嶋さん、私にはやっぱり無理ですぅぅう、」
「まあな…あそこまで実力差が目立つとは俺も想定外だったよ。」
帰りの車の中、苦笑いを浮かべる木嶋さんは、傷心中の私を慰める気なんてさらさらないらしい。
嘘でもいいから、「俺は上手いと思ったよ!」とか言ってくれれば…
いや、そんな明らかな嘘、逆に落ち込む…。絶対…。
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