Seen4 危険な鑑賞会

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昴くんの胸に体を倒して、ピッタリ体を寄り添わせると、昴くんの方からトクトク心臓の音が聞こえる。 …ああ、落ち着く。 昴くんから与えられるこの体温が…大好き。 「昴くん…、私としたくないわけじゃない?」 「逆に美波が俺としたくないんでしょ?」 「違うもん。昴くんとじゃなきゃできないもん。」 「…ああ、可愛いこと言うなぁ、もう。させてくれない癖に生意気だぞ、ポメ!」 「…ポ、ポメじゃない!犬扱いしないで!」 突っ込むと、あははと穏やかに笑って、ギュッと私を包み込むように抱きしめてくれる。 部屋に広がる穏やかな沈黙。 心地よくて、安心するのに胸だけは甘い痛みに苛まれて、なんか変な感じ。 「ゆっくり準備して、一番気持ちよくなれるときに。俺がみーちゃんの初めて貰ってあげる。」 「…、うん。」 その言葉が、泣きそうなほど嬉しいのは、なんでかな。 これって…私、昴くんのこと、好きなんだよねぇ? 心の中で何度疑問を問うても、誰も答えてくれない。 正解、不正解、その判断をしてくれる人がどこにもいない。 でもね、これが恋じゃないというのなら何が恋なのかって…本気で思うの。 22年間生きてきた中で初めて生まれた、“恋”とおぼしきこの感情。 大切で、宝石みたいなこのキラキラした感情を…昴くんに見せたら…どうなるかな。 彼の優しい胸の中でそんなことを考えたら不思議と瞳に涙が滲んだ。 勘違いしてはいけない。 これは恋愛の“レッスン”であって本物の恋じゃない。 私には本物でも…昴くんの中では、私はただの共演者に過ぎないんだから…。 生まれて初めての感情が大切。 昴くんとのこの時間が、関係が大切。 だからね、 「昴くん、また色々教えてね。もっと愛菜に近づきたい。」 「…ん。美波なら…出来るよ。」 私はこの恋を演技に乗せる。 このジリリと痛む、切ない痛みさえ、私は“経験”として“演技“に反映させるんだ。 本物の恋を、偽りの恋に利用する…私はゆっくり…でも確実に、 “女優”という残酷な人間になれているらしい。 危険な鑑賞会 ーendー
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