Seen5 可愛いあの子

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俺は昔からあまり執着がない。 友人の溜まり場になることの多い俺の家にみんなあれこれ置いていくけど、そういうのも整頓されていれば別に気にならないから自由にさせていた。 女性からアプローチを受けて、断って逆上されるのも面倒だから据え膳はいただくし、でも、決して“彼女”だなんて特別な存在ではないことは相手に突きつける。 ほら、好きでもない相手とのスキャンダルほど萎える後処理ないじゃん。 純愛は仕事の中だけで十分。 どうせこの世界では基本的に晩婚が多いし、正直自分が結婚に向いてるとは思えないわけで。 26歳なんて、まだまだ焦るような歳じゃないよな。 プライベートは適当に遊んで、楽に、楽しく…仕事に影響でなけりゃとりあえずそれでいい。 「福山監督、遅れてすみません。」 「お、久城くん。人気者呼び出してごめんねぇ」 「いえいえ」 映画制作会社のオフィス。 若い頃からお世話になっている福山監督と約束をしていた。 「台本、面白かったです。後半にかけて人間の狂気が見れる感じが。」 「そう?ありがとう。ずっとやりたかった恋愛物なんだけどねぇ、ほら、僕普通の恋愛書けないから。」 「いやいや、ただの純愛物なら俺出たくないっすよ。福山監督の子の毒っけが好きなんですから。」 「はは、天下の久城昴にそんな風に持ち上げられるなんて嬉しいなぁ」 「いや、本心っすよ。」 福山監督から飲みの席で「次、恋愛物書きたいんだよね」という話を聞いてから一年ほどが経っていた。 「頭の中では勝手に久城くんで男役作ってるんだけど、ね、出てよ」と軽口でオファーされて二つ返事でOKを出した。 今の俺があるのは紛れもなく、この人のおかげで、事務所にスケジュールを確認するまでもないだろうと踏んだからだ。
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