Seen5 可愛いあの子

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飲むたびに脚本の構想を語られて、意見を求められて、本をもらって演じることが仕事である俺のような一俳優が答えるようなことではないけれど、図々しく意見を伝えたりもした。 そうして出来上がった台本は、狂気に満ちていた。 しかしその芯にしっかりあるのは、初恋というテーマ。 ピュアさと人間の狂気をミックスさせた、さすがとしか言えない本に出来上がっていた。 「この拓人は俺として、愛菜役は誰か決まってるんですか?」 「ああ、うん。今日はそれを相談しようと思ってね。」 「…?」 穏やかに微笑む福山監督。その表情で相当良い人選ができたのだと悟る。 愛菜は他人を物のように扱うサイコパス。 人生の全ては遊びで、明るくも儚く、残酷な人間だ。 そして、そんな主人公が本物の愛を知り、別の意味での人間の狂気を見せるというストーリー。 そんな難しい役を演じられる役者なんて、限られてくる。 それに加えて、愛菜の役の年齢は23歳と若い。 その年代の女優で、愛菜の初々しさを残しつつも浅ましくあざとい姿を表現できる人間となるとさらに…。 先日の映画祭で新人賞を取ったあの人か? 朝ドラで最高視聴率を叩き出したあの子か? 俺が頭に浮かべた今旬で実力のある数人の若手女優。 監督は、そのどれにも当てはまらない彼女の名前を満足そうに口にした。 「…あのね、愛田美波ちゃんとかいいなって。」 「…え、愛田美波…ですか、」
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