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ブランドイメージから歴史背景までをも連想させるような力強い瞳。
相手を威嚇するようなその表情全てで、
誰にも靡かない、強く自立した女性を思わせる。
足先から指先まで、意識して作られたそれはまるで絵画のようで。
声、動き、表情、演出、あらゆるものを使って表現する映像作品を超越してしまうほど…その静止画にはこだわり抜かれた表現が詰まっていた。
「台詞回しや動きなんかっていうのは努力でどうにでもなる。僕は彼女自身の成長を通して、愛菜の成長を描いてほしいって…そう思うんだ。」
力説するこの時の監督は、俺から同意を得たいとかそういうことじゃなくて、ただ愛田美波の良さを話したいだけだったんだと思う。
「演技が上手くて愛菜のキャラに似合う役者さんは他にもいるだろうけど、普段の印象が愛菜とかけ離れている美波ちゃんだからこそ、視聴者はきっと愛菜だけに集中することができる。」
「…」
「愛菜はサイコパスだけど、ある意味では無垢なんだ。本当の恋愛を知らず、初恋に戸惑い、自分の感情の伝え方が下手くそで…
そんな本質的な無垢さというところは…美波ちゃん本人と重なる部分もあるんじゃないかな。」
一気に話す監督の言葉を只々黙って聞いていた俺。
監督が黙れば当然室内には沈黙が流れて…。
「…ねぇ、どうかな、久城くん…。」
あれだけ全力で愛田美波を語っていたくせに、急に自信なさげに眉を下げた監督に思わず吹き出してしまう。
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