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「まあ、そんなに落ちるなよ。モデルだって最初から上手くいったわけじゃないだろ?これから頑張れば…」
「モデルは好きだから出来たんです!でも女優は…、」
「…」
苦手。やりたくない。…なんて、
いくら傷ついて投げやりになっているからって私を売り出すために頑張ってくれている木嶋さんに…言えるわけがなく、…どうにか押し黙る。
黙りこくったまま涙だけを溢れさせる私の顔を覗き込んだ木嶋さんは、
「泣くのはいいけど、目は腫らすなよ。明日の仕事に支障が出る。」
…あまりにも無慈悲すぎる。今くらい仕事のことを忘れさせてくれればいいのに。
「大丈夫ですっ!目から流れる前にティッシュに染み込ませてますから!」
「うわ、眼球にティッシュ付いてんじゃん。こわ…」
細く丸めたティッシュを下瞼に突き立てて溢れる涙を染み込ませる。こうすることで瞼を擦らなくて済むから瞳が腫れることはない。
…泣き虫な私が芸能界で生きていく上で編み出した素晴らしい泣き方だ。
そう、散々泣いてきた。今まで。
努力して、打ちのめされて、また努力して。
一番人気のモデルになりたかった。
私が憧れたように…誰かに憧れられる、そんな素敵なモデルさんになりたくて…毎日いろんな雑誌を研究して、ポーズを研究して。
ファッションにも詳しくなるために、ブランドの歴史やコンセプトを調べたり…。
その努力は目に見えて撮影現場で現れて…自分が成長している感覚がすごく嬉しかったんだ。
でも、演技はそうはいかない。
どんなにレッスンに通っても、何度台本を読んでも…。
私は本の中の人とは違う人間で…。
もちろん共感できるシーンもあるけれど、今回の愛菜のように変わった役だと、何を考えてそういう行動に出ているのかちっとも分からないのだ。
そんな私が…愛菜になりきれるわけがない。
似た役の女優さんの演技を真似したところで…やっぱりそれは愛菜じゃない。
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