Seen5 可愛いあの子

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制作前の顔合わせ会。 初めて生で見た愛田美波は、そりゃあもう…ビビるくらい可愛かった。 この世界で可愛い人も綺麗な人も散々見てきたが、その中でも群を抜いている。 透けるような白い肌。 片手で掴めそうなほどに小さな顔にバランスよく配置されたくりっと大きな目。その内側で、色素の薄い瞳が緊張を表すように揺れていた。 「あ、あの…」 震える赤い唇から漏れ出たのは鈴が鳴るような澄んだ声。 そりゃあ売れるわなぁ、と納得してしまう。 なんなら、現時点でもっと売れててもいいくらいだろう。 「あ、愛田美波です…、おねがっ、お願いします…!」 こういう場に慣れていないようで、余裕なく頭を下げる姿に思わず笑ってしまった。 こんな純粋そうな彼女がADDICTの広告ではあんな顔を見せているなんて、改めてすごい。 …なんて、この時点で俺の中で彼女への期待値が高まり過ぎていたのかもしれない。 『あなたが欲しいの。』 愛田美波が演じた愛菜のセリフ。 …いや、ただ口に出しただけの愛菜のセリフ。 別にど下手くそなわけではない。 抑揚もあって話口調にはなっている。 けれど…、 「ねえ、…ちゃんと台本読んできたの?」 「…っ、」 台本に込められた監督の想いや、物語全体の基礎となるこのシーンの重要性を全く理解されていない読み方に、期待していた分がっかりした。 彼女の台本がボロボロなことくらい分かってた。 でも、それだけ練習したくせにそれかよ、ってそれさえ腹立たしくて。 監督が熱弁していた彼女は結局この程度だったのか…と、この先が思いやられた。
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