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「自分で考えなきゃいけないことだっていうのは分かってます。でも、この1週間、ずっと愛菜のことを考えて、向き合って…結果、私は彼女が分かりません!」
「監督…、せっかく選んでいただいたのに、無能ですみません。私だけでは…愛菜にたどり着けませんでした…」
「でも、…諦めたわけじゃないんです…っ、
私は愛菜になりたい、でも…私の力だけでは無理なんです。なんでもします…、私に出来ることなら、なんでも…!」
「お願いします。…私が演じるべき、愛菜を教えてください…っ」
息もつかず、一気に声を上げた彼女は深く頭を下げる。
分からない、出来ない、教えてほしい。そういう言葉を素直に言えなくなったのはいつからだろう。
大人になればなるほどプライドや見栄が邪魔をして、自分の非を認めることが出来なくなる。
でも、目の前で頭を下げる彼女は、俺だけに見える角度で祈るように固く目を瞑っていた。
シンっと静まり返る現場。今、彼女がどれほど心細いか、容易に想像できる。
撮影を止めてしまっている罪悪感、自分の努力が認められなかった絶望感、周りからどんな目で見られているのだろうかという不安感。
この状況で“出来ない”と主張するのがどれほど怖いことか…。
でも彼女はそれでも格好つけずに主張した。
前に進むために、これ以上周りの時間を無駄にしないで正解に近づくために。
その姿が健気で、眩しくて…
俺は彼女を純粋に格好いいと思った。
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