1146人が本棚に入れています
本棚に追加
「キスの練習でもしてみる?今度はちゃんと唇で。」
無垢な彼女の狼狽える姿が見たくて意地悪くそう言ったにも関わらず、「はい!お願いします。」なんて、汚れのない笑顔を向けられて。
あまりの予想外の反応にキョトンと目を広げた俺は相当間抜けな顔をしていたと思う。
天然、というのかなんなのか。
この子は“男の下心”なんて全く想像してもいないんだろうな、と思えばひたすら心配になって。
でも、堪らぬ可愛さに無意識にニヤける口元が、女優としての彼女だけでなく、素の彼女にも随分と魅せられていることを証明していた。
「お邪魔しまぁ…す」
「はい、どうぞー」
撮影の後俺の家に来た彼女をソファーに促して、自分はキッチンに向かうと、落ち着きなくキョロキョロと俺の部屋を見回している彼女が目に入る。
ソファーにちょこんと腰掛けて、ソワソワしている様子が場所見知りする子どもみたいで可愛い。
男の家に来るのが初めてだと言う美波の反応を楽しむように揶揄うと、その度全力で返してくるのがおかしくて、ついいじめ過ぎてしまう。
だっていちいち反応が可愛すぎる。
顔を真っ赤にしたり、いじけたように唇を尖らせたり…かと思えば次の瞬間、満面の笑みにドキッとさせられる。
映画の役とは本当に大違い。
真っ直ぐで素直で、本当にいい子で。
“恋愛を教えてあげる”なんて、馬鹿な理由でここに連れてきたけれど、本当は少し下心もあるって本人が知ったらなんで思うだろうか。
師匠って馬鹿みたいにまっすぐ慕ってくれるその瞳は俺に幻滅してしまうだろうか。
最初のコメントを投稿しよう!