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これから行われる映画の撮影は、もちろんだけどあのシーンだけではない。
愛菜が日を追うごとに拓人を好きになっていく姿。
愛を知って狂っていく姿。
そんなの…私が演じられるわけがない。
…だって私…。
恋すらまともにしたことがないんだから。
「木嶋さん、…恋ってどんなものですか?」
「は、なんだよいきなりポエマーかよ。」
鼻を啜りながら尋ねると、怪訝な視線が向けられる
ポエムじゃない。大真面目に聞いている。
「私、小学生の時から仕事一筋で…学校の行事もあんまり参加できてないし、友達も少ないじゃないですか?」
「はー、知らねーけど。」
「もちろん恋したことないし、彼氏もいたことないし、キスだって…」
「…」
「うううう、私、ファーストキス…仕事なんですよぉ?!」
口に出せば、また泣けてくる。
自分のことながら…不憫すぎて…。
私だって素敵な恋をして、素敵な彼氏を作って、ロマンチックなファーストキスをしたかった。
それなのに、初めてのキスがほとんど話したこともない男の人と、…なんて。
「それに、…今回の映画って…」
「…」
少し困ったようにメガネをクイッと持ち上げる木嶋さんを軽く睨んで、口を尖らせた。
「…ベッドシーン…も、ありますよね?」
「…まあ。」
私から目を逸らした木嶋さんは、「それに関しては俺もまだ早いとは思ったんだけど…社長がなぁ」と苦虫を噛み潰したような表情。
分かってる。今までの愛田美波のイメージを壊して、役の幅を広げるべきだってことは。
でも私は…
「木嶋さん、…ごめんなさい。」
「…え?」
「私、やっぱり…自信ないです。」
「…」
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