Seen1 嘘つき女優

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《ねえ、…ちゃんと台本読んできたの?》 あのセリフ、声、表情が…頭にこびりついている。 呆れたような、迷惑そうな、…邪魔者を見るような…。 怖くて、恥ずかしくて…出来ればもう二度と…久城さんと顔を合わせたくない。 「私…モデルがやりたいです…そうじゃなきゃ…芸能界にいる意味が…っ、私にはありません…、」 「何を甘えたことを…、」 「甘えてません…っ、私は…覚悟を待ってモデルをしていたのに…それを取り上げられて…、じゃあ…私、何のために…っ、」 顔を両手で覆って泣く私に、木嶋さんは、はああ…と、深いため息をひとつ。 …そして。 「分かったよ…。」 「…え?」 私が啜り泣く音だけが響いていた車内に…確かに木嶋さんの了承の声が響いた。 慌てて顔から手を退けて、「え、映画…っ、降りていいんですか?!」と前のめりで尋ねると、 「な訳ねーだろ。馬鹿」 「あいてっ!」 パーにした手で軽く頭を叩かれた。 自分の事務所の所属タレントを叩くなんて…そんなのありですか? 叩かれた場所を押さえて涙目で木嶋さんを見つめると、再びため息をつきながら仕方なしに口を開いた。 「この映画、ちゃんと撮り終えて、成功させたら…」 「…させたら?」 「…専属モデル続けられるよう…社長に頼んでやるよ。」 「………ほ、ほんとですか?!」 胸の前で両手を握り、途端瞳を輝かせる私に、木嶋さんは「ああ、」と苦い表情ながら確かに頷いた。 まだモデルができる。 それは、私にとって大きな活力で。 「…そ、そういうことなら…私、頑張ります…っ!く、久城さんになんか…負けません…!」 「いや、それは流石に無理だろ。」 急にやる気になった私に少し安心したように笑った木嶋さんは、「胸を借りるつもりで、色々吸収させてもらえ」と、ポンポンと肩を叩いた。
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