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「昴くん、昴くん!」
「ん、どうしたの?美波。」
「お疲れさまです!」
「ふふ、うん、お疲れさまです。」
休憩中、愛菜とは全く違う毒気のない笑顔で近寄ってきた美波。
見えないはずの尻尾がご機嫌に揺れている。
ああ、今日も可愛いなぁ。
心の中で呟いて、自然に綻ぶ表情を隠すこともせず美波の頭を撫でてあげる。
「昴くん、髪の毛崩さないでね?」
「うん、気を付けて触ってる。」
「ふふっ」
「…」
この後の撮影に響かないように、優しく優しく手を動かせば、満足そうにニコーっと笑みを深めて、その存在自体が尊すぎる。
やーばいな、なんで俺今まで気づかなかったんだろ。
可愛いな、可愛いな、って頭の中そればかりで、馴染みがなさすぎる【この子が好きだな】って言葉は浮かんだことがなかった。
でも、その言葉を発見してしまったあの日から、事あるごとに【可愛い】と共に頭の中を【好き】が埋め尽くす。
「あ、昴くん、この間言ってたお菓子!」
「ああ、持ってきてくれたの?」
「うん、…あ、他のスタッフさんの分はないから秘密ね?」
「ん、ありがとう。」
スタジオの脇のパイプ椅子に並んで座って、美波から貰ったお菓子の箱を開ける。
中に入っていたのは、スポンジケーキの中にカスタードクリームの入ったもので。
「みーも食べる?」と声をかけると「え、いいの?」と目を輝かせるのがおやつを前にした子犬みたい。
でも次の瞬間「あ、でも…さっきお弁当食べちゃったから…」と、残念そうに耳を垂らすから、手に持っていたお菓子を迷わず半分に割って、小さい方を差し出した。
「はい、じゃあ一口だけあげる。」
「…!ありがとう!私これ大好きなの!」
「ううん、美波からもらったやつだからね。」
いちいち大袈裟な反応が堪らなくツボ。
頭ぐしゃぐしゃになるくらい頭を撫でてあげたくなる。
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