Seen1 嘘つき女優

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…吸収…させてもらう、…か。 「久城さん、すごくお芝居上手でしたよね…。一言目から、もう…久城さんではなくて、全くの別人でした。」 演技の上手い人は今まで沢山見てきたけど、久城さんは素人の私から見ても明らかに別格だった。 演技をする、ではなくて、役に入る…というのを初めて目の前で見た感じ。 私みたいに気負っているわけでもなく、直前まで普通に笑っていたのに…さらりと役に入れる。まるで最初からその人だったみたいに。 どうしたらあんな風にできるのか…コツとかあるなら聞いてみたいけど…。 「うー、正直久城さんに会うの…もうトラウマです、私ぃ…」 またあの綺麗な顔で蔑むような目で見られたら…立ち直れる気がしない…! 「じゃ、モデルは諦めるんだな?」 「…っ、や、やります…!頑張ります、けど…!ここでくらい弱音吐かせてください!あの場の緊張感凄かったんですから!」 わーわー喚きながら木嶋さんに言い返せば、「いつも通りの元気出てきたな。」と笑われた。 「まあ、久城昴の場合、ああいう遊び人役はお手のものなんじゃないか?」 「え?」 「あいつ、来るもの拒まずで業界では有名だろ。ファンや一般人に手出さないところが計算高くて表にはスキャンダル出てこないけど、それでも事務所は火消しに大変らしい。」 「へー…」 芸能界ゴシップも抜かりなく把握している木嶋さんにそんなことを教えてもらって、やっぱり私生活での経験も役の幅を広げるには大切なんだなぁと実感していると、 「…お前、変な意味に取るなよ?」 「え?」 木嶋さんのメガネがきらりと光る。 なんのことか分からずビクッと肩を揺らすと、木嶋さんは眉を吊り上げて私に詰め寄った。
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