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どうやらだいぶ気の強いタイプらしい如月さんは、「今回初めての共演のくせに、そんなに仲良くなるなんてズルい…」と不服そうにぷくっとした唇を尖らせる。
なんて答えれば良いのか。
…昴くんは演技の師匠で、恋愛の師匠で、私のこと犬だと思ってて、たくさん可愛いって言ってくれて…
頭の中でぐるぐる伝える言葉を考えて「えっと…」と口籠っていると、横からよく響く低い声が差し込まれた。
「俺が下の名前で呼んでほしいって言ったから。」
「…っ、」
「初めての共演とか関係なく、俺が仲良くしたいと思ってるから仲良くしてる。」
淡々と、感情の抑揚なく伝えた昴くんに大きく目を開く如月さん。
しばらくの間の後、「ふーん?」と意味ありげにじとりとこちらに視線を向けたから…、なんとなく、二へラと苦笑いを浮かべて。
そうしたら、何故だかキッと睨まれた後、フィッと顔を逸らされた。
「じゃあ私も“昴くん”って呼びたいです!」
「は?」
昴くんの腕に自分の腕を絡ませて、上目遣いで彼を見上げる如月さん。
「いいじゃないですか!私のことも下の名前で呼んでください!」と、可愛い行動に反して、口調は割ときつめ。
困ったように眉を顰めながら、「…ま、気が向いたら?」と答えを濁す昴くんに、「え〜」と不服そうに唇を尖らせつつ、
「じゃ、撮影始まるまで、撮影所の案内してくださいよ!」
「…は?すぐ始まるでしょ。」
「ちょっとの間でいいですから!」
「…ねえ、馴れ合わないんじゃねーの?」
「昴くんと私は仲のいい同僚役なので話が別です!」
ニコッと鉄壁のスマイルに乗せて、コテンと小首を傾げた彼女にそのまま腕を引かれてスタジオの出口へと引っ張られていく昴くん。
何やら言い合いをしながら遠のいていく二人の背中。
それを見ながら、一人置いていかれた私の胸はざらりと嫌な違和感に覆われた。
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