Seen7 恋の病

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話し相手を失った私は仕方なくトボトボとスタジオ端の休憩スペースに向かい、パイプ椅子に腰を掛け、今日の衣装のニット素材のスカートを撫でる。 これが使い古したニットスカートなら、毛玉でも取って暇を潰せるのに…なんて思いながら、衣装さんが用意してくれた真新しい可愛いスカートを撫でていると。 「あれぇ?美波ちゃん、一人でどうしたの?いつも昴くんと遊んでるのに。」 「…羽瀬さん、」 暇を持て余す私に声をかけてくれたのはスタイリスト兼ヘアメイクの羽瀬さん。 愛菜の衣装やヘアメイクのことで相談をしているうちに仲良くなった優しいお姉さんだ。 「昴くん、如月さんに撮影所の案内しに行ってます。多分撮影始まる頃には戻ってくると思うんですけど。」 「あらら、新キャラにお兄ちゃん取られちゃったの?」 「……取られちゃいました、お兄ちゃん。」 「みーちゃんを一人にするなんて、後でお母さんが怒っておいてあげるからね?」 「…寂しいです。美波は暇を持て余しております。」 わざとらしく頭をもたげてシュンとした様子を表すと、羽瀬さんはワハハと豪快に笑って、「少しリップ取れちゃってるから直そっか?」と私の前にしゃがむ。どうやらお話相手になってくれるらしい。 「どう?如月さん。仲良くなれそう?」 「んー、恋敵役なので、あまり馴れ合いたくないと言われてしまいました。」 「…ああ、なるほどね。何も言い返せないやつだね、それは。」 腰元につけたバックから口紅と筆を取り出した羽瀬さんが手の甲で色味を確かめながら苦い顔で笑った。
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