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「やっぱりプライベートから役に入るための準備って必要なんだなぁ…って、何も考えずに仲良くなりたいなと思ってた自分が情けなくなりました。」
「あはは、美波ちゃんがそんなこと考えて「馴れ合いたくないんで」とか言ってたらちょっと笑っちゃう。」
「え?…そ、そうですか?今度そんな現場があったら如月さんの真似してみようと思ってたんですけど…」
「ふふ、やめなさい。あなたには似合わないから。」
また豪快にワハハと笑われて、何が正解なのかさらに分からなくなってしまった。
うーん、あとで昴くんに聞いてみよう。
ブラシで口の縁をなぞられながらそんなことを考えていれば、指でポンポンと表面を撫でてから「はい、できた。」と笑う羽瀬さん。
彼女が掲げた鏡で自分の顔を視界に入れるとマットな質感の赤ブラウンがくっきりと顔の中で映えていた。
「わーい、羽瀬さんありがとうございます!唇舐めちゃうの癖なんです。」
「あはは、美波ちゃんすぐ口紅取れるよね。いつでも塗り直してあげるからいつでもおいで?」
「えへ、ありがとうございます。色味めっちゃ可愛いですよね、このリップ。マットなのに乾燥しないし。」
「そうそう、前から美波ちゃんが愛菜に似合う強めのメイクにしたいって言ってたからそれっぽいの見つけると買うの癖になっちゃって。」
苦笑いを浮かべながら「コスメオタクのサガかなぁ?似た色買い占めて比較とかしたくなっちゃうんだよね。」と頭を掻く羽瀬さんに釣られるように私もにこりと笑う。
着々と準備が進められるセットを横目でチラリと見やり、「そろそろ始まりそうだね」と羽瀬さんが呟いた頃。
「昴くん、色々教えてくれてありがとうございました〜!」
「いいえ。」
スタジオの入り口の方から昴くんと如月さんが戻ってきた。
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