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大きく深呼吸して、少しずつ愛菜を自分に取り込んでいく。
傲慢で自分勝手。でも、少しずつ拓人のために女の子に変わっていっている愛菜。気高く美しく、それでも可愛らしく…愛の方向を間違えてしまうほどに実はピュアな心を持つサイコパス。
監督や昴くん、そしてスタッフさんの手を借りて今まで成長させてきた愛菜。
確かに演技が如月さんに受け入れられるのか少し怖いところではあるけど、怯むことなく、みんなで作り上げた愛菜を堂々と演じようと心に決める。
いつスタートの合図が来ても大丈夫、というタイミングで「久城くん、ちょっといい?」となにやら昴くんだけが監督に呼ばれて席をたった。
「…」
「…」
それによりその場に取り残された如月さんと私。
セットの周りにはスタッフさんやエキストラさんが沢山いるとはいえ、2メートル圏内には私と如月さんだけになり、勝手に緊張感を感じてしまう。
なんとなくその場でソワソワしていると、「ねぇ、」とソファーに座る彼女が机の上に両肘を付き、じろりとこちらを睨み上げた。
「…あなたどうやって昴くんに取り入ったの?」
「…とりい、…へ?」
まるで詐欺師でも見るような怪訝そうな瞳。あまりに突然な言いがかりに思わず間抜けな声が出た。
キョトンと目を丸くして固まる私に顎を上げて、はぁ…とため息をつきながらソファーに背中を預けた彼女は、
「ピュアそうなふりして、人をたぶらかすのが上手なのね。羨ましいわ?」
…なんて、明らかに悪意が込められた正真正銘の毒を吐く。
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