Seen1 嘘つき女優

21/27
前へ
/548ページ
次へ
「…す、すみませ…、」 呆然としながら、反射的に謝る私の口。…でも、なんで謝っているかは…分からなかった。 私の努力が足りなかったから? …いや、出来ること全部やってきた。精一杯の努力はした。 私の演技が下手だから? …もし、そうだとして…、好きで下手くそなわけじゃない。改善策も何も浮かんでいない今…謝ったところで…次の演技で監督を満足させられる演技が出来るわけがない。 胸がきゅううと締まって苦しくなるが、ぎゅっと拳を握って自分を奮い立たせる。 泣きたいけど、泣かない。 無駄になるかも…って、覚悟しながら練習してたでしょう? …だったら、 「あの…愛菜じゃないっていうのは…、どういうことですか?」 「…、」 「教えてください、私…愛菜になりたいんです、でも…分からないんです!」 恥を忍んで声を上げる。 本番の撮影をしている時点でこんな質問…呆れられるだろう。私をキャスティングしたのが間違いだったって思われるだろう。 …それでもいい、…それでもいいから教えて欲しい。 どうすれば監督の言っている愛菜の演技が出来るのか、もう自分の力だけではどうしようもなくて、 私は頑張れるのに、…どんな努力だって惜しまないのに…… …努力の、仕方が…分からない。 私はここで諦めるわけにはいかない。 こうやって恥ずかしくても、情けなくても…どんな手を使ってでも…。 愛菜として演技をして、絶対にこの仕事を成功させて、 そして、私は… モデルという…幻想的なあの夢の中に居続ける。 監督を強い視線で見つめるが、監督は口を閉ざしたまま。 監督の瞳がちらりと横に逸れた時、 「…俺、ちゃんと台本読んだ?って聞いたよね?」 「…っ、」 コツコツとセットの床を鳴らして、久城さんがこちらに近づいてきた。 撮影前のあの優しい顔ではない。先日の顔合わせ会の別れ際、私を蔑んだように見下ろす…あの顔だ。
/548ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1146人が本棚に入れています
本棚に追加