Seen1 嘘つき女優

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「よ、読みました…、ボロボロになるまで、一言一句…覚えました…」 悔しさをぶつけるように唇を噛んで久城さんを見上げると、久城さんははあ、とまたあの呆れたようなため息をついて、 「俺が言ってんのは、台本の意図、人物の思考まで、全部理解して読んできたかってことだよ。」 「…っ、」 「隅々まで読んで中身覚えんのは当たり前。あんたの仕事は上手に演技することじゃない。愛菜という人間になりきることだ。」 「…」 もっともなことを言う久城さん。 でも、その言葉に…私の心が踏み潰され、擦り潰されていること…きっと気づいていない。 私は愛菜じゃない。 プライベートでは殆ど男の人と関わらずに生きてきた私には…ゲーム感覚で男を堕とす、愛菜の心理は…理解したくても理解できるわけないのに…。 もうどうすればいいか分からなくて、心は絶望に覆われたが、必死に表に出さないように踏ん張った。 ここで泣いたら、逃げたら…私の成長はここで終わりだ。 スタッフからの視線が痛い。 相変わらず真顔で私と久城さんのことを見つめる監督の視線が怖い。 始まったばかりの撮影を止めて申し訳ないし、決められた期限までに監督が求めるものを仕上げられなかった自分が情けないけれど…、 「…久城さん、すみません。今から…甘えたこと言うなって怒らせるかもしれません。」 「え?」 先に申告して、真っ直ぐ久城さんを見上げた。 「…お願いします。私に愛菜を教えてください。」 「…」
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