Seen1 嘘つき女優

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深く頭を下げる。周りがざわついたのが聞こえたけど、羞恥心なんてもうどうでもいい。 「自分で考えなきゃいけないことだっていうのは分かってます。でも、この1週間、ずっと愛菜のことを考えて、向き合って…結果、私は彼女が分かりません!」 「…」 出来ません、分かりません、…なんて、…本当は言いたくなかった。 だから私なりに必死に努力したけど…結局ダメで。 それなら、もっともがいて、苦労するべきなのかもしれないけど、どれほどの時間があれば私だけの力で愛菜にたどり着くのか見当もつかないし、残念ながらそんな時間は残されていない。 ガバッと顔を上げて、監督に身体を向け、そちらにも深く頭を下げる。 「監督…、せっかく選んでいただいたのに、無能ですみません。私だけでは…愛菜にたどり着けませんでした…」 「美波ちゃん…」 「でも、…諦めたわけじゃないんです…っ、 私は愛菜になりたい、でも…私の力だけでは無理なんです。なんでもします…、私に出来ることなら、なんでも…!」 悔しい、情けない、恥ずかしい。 でも、…出来ないまま、周りに迷惑をかけるのはもっと恥ずかしい。 「お願いします。…私が演じるべき、愛菜を教えてください…っ」 瞳の縁に涙が滲んだ。 …でも、絶対に現場で涙は落とさなかった。
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