Seen1 嘘つき女優

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シン…と静まり返るスタジオ内。 やっぱり、出来ないから誰かに教えてもらおう…なんて、甘すぎると怒られるだろうか…。 そう、諦めかけた時。 「…監督、ちょっと愛田さん借りていきます。」 「えっ?!」 手首を掴まれ、セット裏に連行される。 「久城くんよろしくね〜」と穏やかに手を振って私たちを見送る監督に、私は困惑の表情を浮かべるしか出来なかった。 「あ、あの…久城さん、」 スタッフの目の届かないセット裏に着くと、手首が解放された。 立ち止まり、振り返った彼は丸めた手を口元に当て、「あんた、すごいね」とクスクス笑っていて。 「は…え?す、すごい…?」 「いや、みんなの前であんなに堂々と“出来ません”って宣言する人初めて見たから。」 「…あ、ああ。」 「あはは、…ちょっとツボってる…くく、」 「…」 本番始まって早々ダメ出しされた上での必死の行動だったのに…ここまで笑われると、ちょっと辛いんですけど? 腰をくの字に曲げて、お腹を押さえる久城さんをじとりと見つめていれば、「はは、ごめんごめん…」と目尻の涙を拭いながら身体を起こした。 「1週間前のあんたと比べて、演技が上手くなったことは監督も分かってるよ。」 「…え?」 「台本を持ち込まずにスタジオに来るなんて、相当読み込んで暗記してきたんだなってことも。」 「…」 ふわりと微笑まれて、きゅううっと痛くなる胸。 自分の努力を気づいてもらえている…なんて、予想していなかったから…今度こそ本当に泣いてしまいそうになったけど、グッと息を止めてなんとか堪えた。
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